万引き。いつの時代も小売店が必ず向き合わなければならない課題の一つ。防犯対策やシステムが進化していることもあり、万引き件数そのものは年々減少(※1)しているものの、コロナ禍での景気悪化、レジ袋の廃止、セルフレジの浸透、マスクの着用など、環境が大きく変わった影響で新しい形の万引きが増加してきています。
※1.警察庁「刑法犯に関する統計資料」より
この記事では万引きの現状・傾向や手口、万引きをさせないための対策を詳しく解説。もし万引きでお困りの方は、ぜひご一読ください。
2020年を境に変化する万引き被害の現状
コロナ禍で増加する万引き
2020年でなにより大きいのは新型コロナウイルス感染症の流行です。景気の悪化による賃金カットなどを理由に生活困窮者が増え、比例して万引きも増加しています。またコロナでもう一つ大きく変わったのはマスクの着用の一般化。コロナ以前は2割程度の人しか着用していなかったマスクをみんなが着用するようになったことで、不審者の判別が難しくなり、万引き犯を捕まえることが難しくなったそうです(※2)。
※2.参考:Real Sound ブック「Gメンが語る、コロナ禍で変わる『万引き』」
レジ袋有料化とセルフレジの普及
2020年における小売業界のニュースといえば「レジ袋有料化」です。これによりエコバッグに精算前の商品を入れ、そのまま精算をせずに店を出ていかれる被害が急増しました。また、ここ数年でセルフレジが急激に普及。主に人件費の削減とレジ台数増加による混雑回避を目的とした、商品のスキャン(バーコード読み取り)から会計までをお客様自身で行えるシステムです。これを逆手に取った万引き犯が、商品をスキャンせずに持ち帰るという手口も増えています。
これらはいずれも見分けが難しく一歩間違えるとトラブルになってしまうこともあるため、ほぼほぼ分かっていても確信を持てないがために取り逃してしまうということが多くなっているようです。
万引きされやすい店舗とは?
×店内に死角が多い
万引きの大前提は人目につかないこと。死角が多ければ多いほど万引き犯にとって好都合で、狙われる危険性が増します。
×防犯カメラが設置していない
万引き犯は見られることを嫌がるので、人の目と同様に防犯カメラがない場所を選びます。
×店内に活気がない(挨拶が少ない)
挨拶が少なくお客様へ向ける意識が低いと感じるお店は、「ここの店員なら大丈夫だろう」と判断されかねません。
×従業員の数が少ない
従業員が少ないほど人の目を避けやすくなるため、従業員が少ない店舗や時間帯は狙われやすくなります。
万引きの手口
- 店内の死角まで商品を運び、人目につかないタイミングを狙って商品をカバン等に入れる
- 試着室やトイレに商品を持ち込みカバン等に入れる
- 精算済みを装って買い物かごやカートごと商品を店外へ持ち出す
- 複数での犯行(仲間が店員の気をそらす、仲間に囲まれ隠された状態で万引きする)
『内引き』とは
従業員やお店に出入りする業者などが商品や金銭等を窃盗することを『内引き』と言います。ケースとしては、棚落ち商品を下げてそのまま持ち帰る、従業員同士グルになりレジを通すフリして未精算のまま持ち帰る、バックヤードに在庫してある商品を盗む、食品の盗み食い、レジの金銭を横領するなど様々。残念なことにこのような従業員による犯罪行為は実際に起きてしまっているため、内引きにも注意が必要です。
万引き・内引き対策
防犯カメラの設置
やはり最初に考えるべきは『死角』を無くすこと。そのためには防犯カメラは必要不可欠です。防犯カメラはその名の通り犯罪を防ぐもの。抑止力として大きな効果を発揮し、カメラの台数が多く死角が少ないほど万引き犯は犯行を躊躇し、被害の可能性は低くなります。
防犯カメラもう一つの役割は被害の記録・検証。もし万引きされてもその瞬間が映っていれば、万引き犯を特定し、犯人の画像を従業員間・会社間で周知・共有することで再犯も防止できます。さらには映像が捜査の手掛かりとなるため、万引き犯を検挙する上でも防犯カメラの設置は非常に重要なのです。
防犯ゲートの設置
お店の出入り口に防犯ゲートを設置し、万引き防止用のタグが付いた精算前の商品がゲートを通過した時に音や光で警告するシステムです。高額な商品に防犯タグが付いているのが多く見られます。ゲートが設置してある、タグが付いてあるだけで一定の抑止効果も見込めるため、防犯の観点では設置するに越したことはありません。
デメリットは、タグが取り外されてしまう可能性があること、ゲートもしくはタグの不具合で正常に反応しないまたは誤作動を起こすこともまれにあること、タグを商品に取り付ける手間・作業コストがかかってしまうことなどがあげられます。
従業員一人ひとりの意識づけ
万引き被害を減らす、無くすには設備やシステムなどハード面を充実させるだけでは足りません。店舗の管理者、責任者はもちろん、社員、アルバイト・パート、従業員一人ひとりが万引きに対して高い意識を持つことが大切です。
店舗レイアウトの工夫
通路設計、陳列・ディスプレイなど、死角が極力少なくなるような店舗レイアウトにすることも万引きを防止する対策の一つです。しかしながら、販売戦略上どうしても死角が多くなってしまう店舗もあるのは事実。そのような店舗では防犯カメラの台数を増やす、防犯ゲートを設置するなどの対策が必要でしょう。
AI顔認識システムの導入
防犯カメラとAI技術を組み合わせたシステムです。店内のカメラが来店者の顔を認識し、あらかじめ登録してある要注意人物の来店を検知して知らせてくれたり、万引き犯の動きをAIが学習して店内で不審な動きをする人物がいた場合に知らせてくれるシステムもあります。運用面・価格面で導入ハードルは高いですが、うまく活用することができれば非常に効果的な対策となるでしょう。
まとめ
勘違いしてはいけないのは、重要なことは万引き犯を捕まえる(逃がさない)ことよりも、そもそも万引きをさせない環境をつくること。システム・設備のハード面と、従業員の意識・行動(オペレーション)のソフト面、両面での環境づくりが大切です。
万引き犯を逃がさないことも大事ですが、下手に刺激し相手を逆上させてしまったら、従業員が危険な目にあわされてしまうかもしれません。従業員を守るという意味でも、まずはしっかりと万引きされないお店をつくっていきましょう。